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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)273号 判決 1977年3月30日

控訴人(第一審被告) 甲野冬子

右訴訟代理人弁護士 熊野朝三

被控訴人(第一審原告) 甲野松夫

同 乙山竹実

右両名訴訟代理人弁護士 加藤勝三

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立て

1  控訴人の求める裁判

(一)  「原判決を取り消す。被控訴人らの訴えを却下する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人らの負担とする。」との判決

(二)  (訴えが却下されない場合は、)「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人らの負担とする。」との判決

2  被控訴人らの求める裁判

主文同旨の判決

二  主張

1  被控訴人らの請求原因

(一)  甲野花子は、昭和四六年八月二五日死亡した。被控訴人らは、花子に先立って昭和二一年一二月二七日に死亡した同人の子夏夫の子であって、花子の代襲相続人であり、控訴人は、花子の子で相続人である。

(二)  原判決別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という。)は、昭和二五年売買によって花子が取得したもので、東京法務局大森出張所昭和二五年一一月二日受付第三六六四号をもって花子名義に所有権移転登記がなされた同人所有のものであり、同目録記載の建物(以下本件建物という。)は、昭和二六年花子が当時大工をしていた夫太郎に依頼して建築したもので、固定資産課税台帳に花子名義に登録されている同人所有のものである。

(三)  従って、本件土地建物は同人の遺産に属し、同人の相続人間で遺産分割すべきものであるのに、控訴人は、花子の遺産であることを争っているので、遺産であることの確認を求める。

2  控訴人の本案前の抗弁

本訴請求は、花子死亡当時本件土地建物が同人の遺産に属していたかどうかの確認を求めるもので、過去の権利関係の確認を求めるものであり、現在の紛争の解決に役立たない。

現に、後記主張のとおり、控訴人は本件土地建物を花子から死因贈与を受けていたのである。したがって、花子死亡当時同人の遺産であったとしても、その後に控訴人所有となり、遺産分割の対象とならなくなった。以上のとおり、本訴請求は確認の利益を欠く不適法なものであるから、よろしく控訴を認容し原判決取消のうえ、訴却下の判決をすべきである。

3  請求原因に対する控訴人の答弁

(一)  請求原因(一)の事実を認める。

(二)  同(二)のうち、本件土地建物が花子名義で登記され又は固定資産課税台帳に登録されていることは認めるが、その余の事実は否認する。昭和二五年一〇月花子の夫で控訴人の父である甲野太郎と控訴人及びその夫甲野雪男は、資金を出し合い本件土地及びこれに隣接する土地を買い取って所有権を取得した。そして、右隣接地を太郎所有として同人名義に登記をし、他方本件土地は、控訴人と雪男の所有となったが、当時太郎と折合いが悪くかつ気性の激しかった花子は、本件土地の所有名義を花子自身にすることを強く主張し譲らなかったので、控訴人は、娘としての立場からこれを承諾したもので、登記名義にかかわらず花子所有とはいえないものである。本件建物は、本件土地と同様に、太郎、控訴人及び雪男が資金を出し合い建築したものである。ただ未登記であるため都税事務所の課税政策上一方的に土地と同一人名義に登録されてしまったものにすぎない。

4  控訴人の抗弁

仮に花子が本件土地建物を取得したとしても、花子は、遅くとも昭和四六年七月一八日以前に控訴人との間で、本件土地建物を控訴人に贈与する旨約した。仮りに右贈与の合意が生前贈与でないとしても、花子の死亡に因り効力を生じるべき死因贈与であった。

5  抗弁に対する被控訴人の答弁

抗弁事実を否認する。

三  立証《省略》

理由

一  控訴人の本案前の抗弁について

特定の物又は権利が被相続人の遺産に属するか否かを確認することは、遺産分割の前提として必要であり、又遺産分割の対象は分割時に存在する物又は権利に限られると解すべきであって、本訴請求もまた現在なお遺産に属するか否かの確認を求めるものと解される。そうとすれば、本訴請求については確認の利益を肯定すべきであって、控訴人の本案前の抗弁は理由がない。

二  花子の所有権取得の有無について

被控訴人の請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。そこで、本件土地建物を花子が取得した事実の有無について検討する。本件土地が花子所有名義に登記されており、本件建物が同人名義で固定資産税課税台帳に登録されていることは、当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

花子の夫太郎は、大工職をしていたが、大正一三年頃滋賀県○○町を出て上京し、○○○で借家して金物商をはじめ、昭和一九年まで妻花子と共に同地で営業していた。そしてその頃戦火を避けて千葉県××に疎開したが、戦後は、太郎花子夫婦と娘の控訴人が協力して、昭和二四年一一月東京都中央区△△の土地を借り金物店を開業した。昭和二五年二月九日控訴人は雪男と結婚し、雪男は他に働きに出るなどしていたが、右△△の建物に二組の夫婦が住むのは手狭なこともあって、右四名は相談のうえ△△の店舗には控訴人夫婦が、新たに購入する本件土地には太郎花子夫婦が住んで、両所で金物店を経営することとし、太郎及び花子は、昭和二五年一〇月頃本件土地(約三八坪)及び隣接の土地(約三五坪)を買い、本件土地は花子名義に、隣接の土地は太郎名義に各々所有権取得登記をした。そして、本件土地上には店舗として本件建物を建築して右金物商を太郎花子夫婦で営業していたが、同人らは夫婦仲が悪く、太郎は家出して長期間不在にすることもあった。このような状況の中で、本件建物は、固定資産税課税台帳上花子名義で登録された。その後太郎名義の土地(前記本件土地の隣接地)上に建物を建築して、控訴人夫婦が△△から転居してきており、また昭和三〇年頃には、太郎名義の右土地のうち約一八坪が太郎から控訴人に贈与されている。

以上の事実が認められ、これによれば、本件土地建物は、登記又は登録のとおり花子が取得して同人の所有となったものと認められる。

三  生前贈与又は死因贈与の有無について

控訴人は、花子の生前に同人から本件土地建物の贈与を受けたと主張し、同人提出の乙第二三号証は、右の贈与の合意を裏付けるものであるというのである。そして、控訴人は、原審及び当審での本人尋問において、被控訴人らの父夏夫は太郎らから千葉県×××の土地あるいは滋賀県○○町の土地などの贈与を受けており、これらの事情が、右の花子から控訴人への贈与の背景となったと説明している。しかしながら、前記乙第二三号証は、控訴人のいうところによれば、原判決で控訴人が敗訴した後発見したというのであって、花子の死亡後すでに四年半余も経過していることを考慮すると、その文書の成立に疑問を抱かざるを得ないのであり、《証拠省略》によっても、右文書が真正に成立したものと認めることはできない。そして、控訴人のいう千葉県×××市の土地及び滋賀県○○町の家屋敷の太郎から夏夫への贈与についても、仮にそのような事実があったとしても、前記認定のとおり控訴人もまた太郎から贈与を受けているのであって、必ずしも当然に花子が孫である被控訴人らを無視して控訴人に本件土地建物を贈与する動機となるものでもないのであって、他に右贈与の事実を裏付けるべき証拠はなく、結局、控訴人主張の贈与(死因贈与をも含めて)の事実を認めるには、証拠上不十分というほかはない。

四  以上認定判断したところによれば、本件土地建物は花子の遺産に属し、同人の相続人間で遺産分割の対象とすべきものである。而して、控訴人はこれを争っているので、被控訴人らと控訴人間で、右の旨を確認すべきであって、被控訴人らの請求は理由がある。

よって、右請求を認容した原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条及び八九条を適用する。

(裁判長裁判官 松永信和 裁判官 糟谷忠男 浅生重機)

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